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「今晩泊まりにいっていい?」そう言われて、いつも通り「構わない」と答えた。
サニーサイドと体の関係になって、どれくらいたつだろう。
全く体だけというわけでもないが、恋愛感情込みというわけでもない関係が続いていた。
支配人室を出たところで新次郎に出くわした。
「あ、サニーさん、昴さん、今日、狭いですけど・・・僕の部屋でパーティをするんです。来ませんか?」
「いや、今日は先約があるので、申し訳ないけど行けないんだよ」
「僕もすまないが、用事がある」
そう言うと、新次郎は残念そうな顔をしたが、
「そうですか・・・」
とだけ言い、去っていった。
「じゃあ、僕もこれで」
「あぁ、またね」
サニーサイドは別れ際さらりとウィンクを送ってきた。
廊下を歩きながら思う。
もしかしてこのことを知っていたから、今日誘われたのだろうかと思った。
そうだとしたらありがたい。
用事もないのに新次郎の誘いを断るのは、騙すようで申し訳ない気分になるし、
部屋に帰ってからもいろいろ考えてしまうだろう。
いつもはどちらかといえば押し切られて的なサニーサイドとの訪問も今日に限っては嬉しかった。
少なくても何も考えずにすむ。
僕はただ快楽の渦に飲み込まれればいいのだから。
「ねぇ、今日はいつもとは違うことをしようか?」
そう言われ、思わず体が強張る。
「何をするかによる、な・・・」
サニーサイドの性癖はあまりにも幅が広く、しかも深い。
それに付き合ってしまった日にはろくなことがない。
「簡単だよ。君は先生、僕は生徒になるんだ」
「先生と生徒はセックスはしないと思うが・・・」
「もちろんしないよ」
サニーサイドは嘘臭いくらい爽やかに笑う。
「そうだね、今日はこのまま泊めてもらうし・・・お泊り保育かな?」
「お泊り保育??」
「知らないかい?」
「知らない・・・」
「幼稚園とかで年長組になると先生と生徒だけで泊まるんだよ」
「・・・・・・」
僕は幼稚園には行っていない。
「それをしよう♪」
サニーサイドは気持ち悪いほどウキウキだ。
これを拒否したらどうなるかそっちを考えるほうが怖い。
まぁ、いいかと僕はため息を吐いた。
「昴先生、パジャマ着させて」
パジャマを羽織っただけの姿。
甘えた声でお願いされる。
気持ち悪いと思いつつ、ボタンをくらい留めてやろうと、
「サニー・・・」
言いかけるとー
「駄目駄目。マイケル君って呼んで・・・」
「はっ!」
たぶん今、僕はすごい顔をしてしまったと思う。
でも・・・マイケル君なんて。
おかしすぎる!
「先生どうしたの?」
いかにも不思議そうな顔で、サニーサイド・・・いや、マイケル君が僕の顔を覗き込んでくる。
「なんでもない。・・・わよ。マ、マイケル君」
たぶん先生はこういう答え方をするのだろうと思い、無理に笑顔を作って、答えた。
「じゃあ、はやくボタン留めて」
にこやかに催促するマイケル君とは視線を合わせずに、部屋にはいつの間にかサニーサイドの服が増えたけど、
パジャマなんてあったかなと思考を巡らせつつ、ボタンを留めていった。
ボタンを全て留め終わり、ベッドの上に座りただニコニコと笑うだけのマイケル君を唖然と見つめる。
(これは・・・先生の指示待ちか?)
困る。
かなり困る。
「じゃあ、寝ようか?」
マイケル君が何を望んでいるのかさっぱり分からない。
でも、寝てしまえばこんなごっこも終わりの筈だ。
「うん!」
マイケル君は頷き、僕はほっとする。
「お布団に入ろうか」
「はーい」
多分、先生や母親といった人種はこうするのだろうなと思い、布団を捲ってやり、マイケル君を寝かせた。
マイケル君と視線が合う。
「じゃあ、おやすみなさい」
マイケル君の髪を撫でる。
そんなことしたことなかったから知らなかったけど、サラサラで柔らかい手触りだった。
先生だったらこれくらいするのかなと思って、頬にキスもした。
慣れてしまえば意外とすらすら出来る自分に、
僕の演技も捨てたもんじゃないなと密かにに悦に入った。
「おやすみなさい」
マイケル君が嬉しそうに答える。
手を伸ばして部屋の明かりを消した。
空調の音ばかり響く部屋。
ただ寝てしまえばいいと分かっていても、いつもとは勝手が違いすぎて眠れない。
そういえば、何故今日に限ってこんなことをさせたのだろう。
新次郎の件かなー
そうかもしれないと思う。
サニーサイドも苦しんでいるのを知っていたから。
「昴先生、トントンして」
突然言われて戸惑う。
(トントンって何だ…)
よく分からないが、親が子を寝かしつける時に体をさすったり、叩いたりしてやるようなものだろうと理解し、
マイケル君との距離をつめる。
手をそっと胸の辺りに伸ばして、さすった。
「トントンがいいの」
少し拗ねた口調で言われ、加減が分からないので、
そっと優しく叩く。
「これでいいのか?」
マイケル君がこっくりと頷く。
「そうか。ならよかった・・・」
トントンを続けていると、
単調な作業にこちらが眠くなってくる。
マイケル君は時々身動きをしていて、まだ眠れないようだ。
「眠れない。だっこして・・・」
今日はされる側でなく、する側なのかと呆れるが、もう慣れた。
首の下と胸の上に腕を回し、抱き締める。
とはいっても、あまりにも体格が違う。
人が見たら、僕がマイケル君にすがりついているようにしか見えないだろう。
しかし、この姿勢は不思議と安心感をもたらすことに気がついた。
いつの間にかマイケル君の手も僕の背中に回っている。
パジャマを通して体温が伝わってくるのが心地よい。
マイケル君の体温が次第に高まってくるのを感じた。
(眠くなってきたのかな)
やがて静かな寝息が聞こえてきた。
(良かった…)
ほっとする自分がいる。
「おやすみ。マイケル君…」
そっと呟き、口の端にキスをした。
何だか良く分からないが、今日はとにかく疲れた。
今夜はよく眠れそうだ。
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