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それからは毎月規則正しく生理がきた。
こんな年になってきだした生理は相変わらず重く、僕を苦しめた。
その度にサニーサイドはひょっこり僕の部屋にやってきて、僕に『手当て』をする。
サニーサイドにこんなことを許す理由はなく、大迷惑だったが、生理になってしまうと身体が辛すぎて
ろくに抵抗する気にもなれないし、正直『手当ては』心地よかった。
薬でも収まらない苛々とする痛みがすっと鈍くなるのだ。
しかし、ひとつ大きな疑問があった。
別に生理になったことを伝えているわけでもないのに(当然のことだが)、サニーサイドは何故か生理
になった途端嗅ぎつけてくるのだ。
仕事を休んだ訳でもスカートをはいていた訳でもない。
表情にも出してはいない・・・と思う。
あまりに不思議でラチェットに訊ねたことすらある。
「生理になったら顔に出ているか」と。
そうしたら、反対に「ちゃんと生理きているの?」と訊ねられた。
それくらいちゃんと隠せていた訳だ。
それなのに何故サニーサイドにはばれてしまうのだろう。
「済まない・・・」
沈黙が支配していた車内でサニーサイドに告げる。
「気にするなと言っても無理だろうけど、気に病むことはないよ」
サニーサイドは静かに言った。
その言い方に既に十分分かってはいるが、事態の重大さを改めて感じる。
僕は本番を明日に控えた新作のゲネプロ途中に倒れたのだ。
ただでさえ今回は稽古が足りていなかったのだ。
今日は追い込みの稽古になるはずだった。
それを主役がいなくなってしまったら、後はろくな練習も出来まい。
全員が不安を抱えたまま明日の本番を迎えることになる。
その以前にこの体調では明日舞台に立てるかも心配だ。
それくらい今回は辛かった。
今年の猛暑も稽古で消耗していた身体に追い討ちをかけたのだろう。
脂汗が噴き出して「いけない」と思った時には意識が遠のいていた。
「昴」
優しく名前を呼ばれ、そっと指先を握られる。
サニーサイドの暖かさに自分の指が冷え切っていることに気付いた。
何かを考えるのすらも辛くて、サニーサイドの肩に頭を預け、瞳を閉じた。
車を下りて、歩くと流石に辛かった。
照りつける太陽が憎い。
頭がくらっとして貧血をおこしてしまいそうだ。
ずんっと下腹部が痛む。
ホテルに入ると、今度はエアコンの冷気が肌を刺す。
ため息をついて、スイートルームに直行する専用のエレベーターに乗る。
エレベーターのドアが閉まった途端、サニーサイドに女抱きにされた。
「サニーサイド!」
「ここから先は誰にも会わないから。大人しくしていなさい」
有無を言わさぬ口調でそう言われ、仕方なく素直に身を任せる。
サニーサイドは軽々と僕を運び、片手で器用に扉を開ける。
部屋に入ると、僕を抱き上げたそのままの姿でソファに座った。
頭が沈まないようにクッションを差し入れてくれる。
まだ不安定な肩を支えるように抱かれた。
僕はサニーサイドの上に横になるような格好になった。
この体勢は気になるが、自分の部屋に帰ったことで少し安堵する。
「いい子にしていたら明日は大丈夫だよ」
暗示を掛けるようにそう言われて、瞳を閉じる。
サニーサイドは僕の腹部を撫でた。
初めはつけ込まれているのかとも疑っていたが、サニーサイドが僕のことを考えて動いてくれているこ
とはここ数ヶ月で充分に分かっていた。
他人に触れられることに違和感はあるが、これは薬なのだ。
僕によく効く薬。
「今日はここが辛そうだったね・・・」
大きな手が下腹部をさする。
いつもは腰が辛いのに、確かに今日は何故か下腹部が痛かった。
そんなことまでサニーサイドはお見通しなのかと驚き、思わず訊ねてしまう。
「何故、いつもいつも僕が生理になったって分かるんだ?」
「どうしたんだい?いきなり・・・」
驚いたようにサニーサイドは目を細める。
「前から気になっていた」
「そうか。昴のことを良く見ているからだよ」
「見ている?」
「そう。よく見ているからわかるよ。数日前から苛々してたからそろそろかなと思っていたら、今日に
なって青白い顔をしていたし、マズい時にきたなと思っていたよ」
本当に僕のことをよく見ているのだなと感心する。
「みんなのことをそんなに見ているのか?」
「んー・・・支配人だからね。出来る限り見るようにはしているけど、昴は特別かな」
「特別・・・」
「昴のこと好きだからね」
サニーサイドの穏やかな口調に聞き流しそうになったが、言葉の意味が咀嚼されるにつれ、信じられな
い思いでサニーサイドを見つめる。
「サニー・・・」
「ん?僕は昴のこと好きだよ」
サニーサイドも僕を見つめ返す。
「それはライクなのかラブなのか・・・」
「さぁ、どちらかな?」
サニーサイドはくすっと笑い、そっと僕の髪を撫でた。
「どちらにしろ迷惑なんだが」
「そう邪険にしないでくれよ。別に昴に危害を加えるわけじゃないし」
「あんなことを言われたら気になるだろう」
「気にしなくてもいいよ」
サニーサイドは僕の髪を飽きることなく梳る。
いつの間にか眠りこんでいた身体が浮き上がる感覚で覚醒した。
「な、にっ・・・」
「いいよ。そのまま眠っていて」
ベッドにそっと身体が下ろされる。
「もうシアターに戻るよ」
その言葉に今日はサニーサイドにとって多忙な日であることを思い出す。
「大切な時間を・・・済まなかった」
「いや、僕も昴と時間を過せて嬉しかったよ」
サニーサイドは屈んだのだろう、僕と同じ目線の高さになった。
「顔色が良くなって安心だよ」
「ありがとう。随分楽になった・・・」
手が伸びてきて、髪を撫でられる。
思わずくすぐったさに目を閉じた。
「僕の『手当て』はよく効くだろう?」
「あぁ、よく効くよ・・・」
それは認める。
『手当て』にはいつも助けられている。
立ち上がる気配がして、帰るのかと目を開いた途端、唇が押し付けられた。
「・・・・・・・・・」
「な」
耳元に囁かれた言葉に唖然とする。
僕の身体には『手当て』よりもキスが効くなんて!!
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