サニーさんの家にお泊まりに招待された。
お母さんもアキラも一緒にだった。
2人っきりになれないと残念に思う反面、ほっとした。
夜にサニーさんの家で2人きりになっちゃったら、
たぶん(絶対)そ〜いうことになると思う。
晴れて恋人同士なのだし、そ〜いうことになってもいいとは思う。
でも、手をつないでも死にそうなほどドキドキするのに
そ〜いうことになったらー
(心臓停止かも…)
いろいろ考えてしまって赤面した。
「さあさあ、はやく用意しな。行くよ♪」
「メシ…何が出てくるかな?」
お母さんとアキラはノリノリである。
それも無理ない。
セントラルパークのなかにある豪邸に泊まりに行くのだ。
旅行気分になっている。
サニーさんの家がセントラルパークにあると知った時、
私は一瞬怒りに我を忘れた。
サニーさんは会おうと思えば(というか通勤路をほんの少し変えたら)、
毎日私に会えたのだ。
それを気まぐれのようにしか姿を見せなかったのは、
ただ単に私を弄ぶためだったのだろう。
今はシアターに出勤する前に会いに来てくれたりして、すごく嬉しいけど。
(朝から木陰に連れ込まれて、大変なことになるし…)
「何、赤面してるんだい?」
お母さんに怪訝な顔をされた。
「な、なんでもない…」
何を考えたのかお母さんはにやりと笑い、
「大丈夫だよ。相手は手馴れなんだから…
大人しく身を任せていたら気持ちよくしてくれるよ」
アキラに聞こえないように囁いてきた。
「よく来たね」
サニーさんが手を広げて、出迎えてくれた。
抱き締められて、お母さんとアキラの前なのに、キスされた。
背中に突き刺さる視線が痛い。
サニーさんの家はヘンテコな家だった。
予想通りに広い豪華な家なのだが、
それ以上にごちゃごちゃしたものがたくさん置いてあるのだ。
後でお母さんに聞いたら、全部日本の物だと言われて、驚いた。
(よっぽど日本好きなんだな…)
素直に驚いていたら、「ちょっと悪趣味だけどね」と
お母さんはウィンクして付け加えた。
「じゃあ、おやすみ」
おでこにキスが落とされる。
「おやすみなさい」
サニーさんはすぐに扉を閉めようとしたが、
私の伺うような視線に気付いたらしく、もう一度扉を開けた。
「ん?どうしたんだい?」
「え、あっ、なんでもありません…」
「そうかい。じゃあね」
扉が閉まる。
(結局、誘われなかった)
期待していたわけではないが、
むしろ当たり前くらいに思っていたのに。
夕食の時もその後も今も気構えていた。
いつ誘われるかと緊張していた気が緩んで、ベッドに倒れこんだ。
「どうしたの?」
お母さんが声掛けてくる。
3人部屋はないということで、お母さんと私が同じ部屋、
アキラが違う部屋に別々に泊まることになった。
「もう寝る。疲れたから」
シーツの中に潜り込もうとする私に
「何言ってるんだい!」
お母さんは大きな声を出した。
「サニーさんの部屋に行かなきゃ」
「なんで…」
「なんでって、当たり前だろう」
お母さんはにこにこ笑う。
「あの人は待ってるよ」
「待ってないよ。誘われなかったもん」
私は待っていたのに。
ずっと。
何故か分からないけど目頭が熱くなった。
「お前の行動を待っているんだよ」
お母さんの声は優しい。
「このままでいいのかい?」
「…分からない」
サニーさんとは一緒にいたい。
でも、これ以上関係が進むのは怖いと思っている自分がいる。
「お前が思うようにしたらいい。
でも、今日は二度とないんだから、一瞬一瞬を大切にしないと」
『今日はニ度と来ない』その言葉はすっと私の胸に落ちた。
私の今したいことは?
そんなこと考えなくても分かる。
「お母さん、行ってきます」
「そうかい。夜に娘が部屋を抜け出しても何も言わない寛大な母親に感謝しな」
「うん。ありがとう」
ベッドからそっと下りた。
鏡の前に座って、自分の姿を確認する。
(よし。頑張ろう…)
気合を入れて立ち上がった。
「
」
お母さんに手招きされる。
「何?」
「男の人には少し甘えるくらいがいいんだよ。
特に相手が年上ならね。思い切って甘えてみるといい」
「わかった…」
まっとうな意見だと思うけど、
お母さんにそんなことを言われるのは恥ずかしい。
俯いてしまう。
「それとー」
胸元に何かを塗られた。
「これ何?」
「日本の練り香油だよ。家を片付けていたら出てきたんだ。
数十年前の物だけど、まだ僅かに香っていたから。」
顔を近付けてみると、確かに匂いがする。
「花の香り?」
「桜だよ」
「これが桜…」
香り自体が薄いせいかもしれないけど、さっぱりとした清楚な香りがした。
香水のきつい匂いは私には合わないと思って付けていなかったけど、
これだったら私にも似合うかもしれない。
「ありがとう」
お母さんの心遣いが嬉しかった。
部屋をそっとノックする。
沈黙が怖かった。
しばらくの間の後、サニーさんが扉を開けた。
「どうしたんだい?」
「あの…」
決意してここまで来たのにやっぱり声が上手く出ない。
「廊下は冷えるし、入って」
肩を抱かれて、部屋に入る。
「座って話をする?」
思わず反射的に「はい」と言いそうになって口を噤む。
今は自分のしたいことをしに来たのだ。
「あの…ベッドでもいいですか?」
恐る恐る聞いた私に、サニーさんはいつものように笑った。
「もちろんかまわないよ」
自分で言ったのに恥ずかしくて恥ずかしくて、
ベッドにさっさと潜り込んだ。
そっと伺うとサニーさんは優雅な動作でガウンを脱ぎ、
パジャマ姿になって、私と反対側からベッドに入ってきた。
「もっとこっちにおいで」
ベッドの端で縮こまっていた私に声が掛けられる。
言われるがままにベッドの中央に寄っていくと、
腕を引っ張られて、そのまま抱き締められた。
「捕まえた」
嬉しそうにそう言われて、思わず顔を見ると視線が外せなくなった。
「もう離さないよ」
ちゅっと唇を吸われ、深くまで舌が侵入してくる。
経験したことのない激しいキスに頭はクラクラ。
なのに甘くて。
髪を撫でる手はとても優しくて、私は夢中だった。
(でも…)
酸欠で思考を停止しかけている頭で、
伝えたいことを伝えなきゃと思った。
「あの…っ」
キスとキスの合間に訴える。
「どうしたの?」
やっとキスの雨が止んだ。
「あの、せっかく泊まりに来たから、
一緒に寝たいなと思っているんですが…いいですか?」
子どもっぽいと思われるかもしれない。
でも、付き合うような人が出来たら、
手をつないで仲良く眠りたいと思っていたのだ。
恐る恐るサニーさんの反応を待つ。
「もちろん。かまわないよ」
サニーさんの手が私の前髪をかきあげる。
「何でも
の思う通りに…」
ほっとして思わず微笑んでしまう。
「ねぇ、
」
「何ですか?」
「今日ずっと随分緊張していたけど、僕に襲われるとでも思っていた?」
「そ、そんなことはないです」
慌てて否定する。
襲われるなんて思っていない。
でも、似たようなことはずっと考えていた。
「でも、ちょっとだけいろいろ考えていました……ごめんなさい」
「いらないことを考えさせてしまったね」
すまないとサニーさんは額にキスをしてくれた。
「
の嫌なことは何もしないよ」
サニーさんの言葉に安堵する。
「ほっとした?」
「はい」
素直に答えると、笑われた。
「だから、そんな緊張してくれなくていいよ」
「はい」
私もやっと笑えた。
「
、さっきのキスの続きしていい?」
「え、まだ続きがあるんですか?」
正直驚いてしまう。
あんなに長かったキスにまだ続きがあるなんて。
「もちろんだよ」
サニーさんはさも当然のように答える。
「あとちょっとなら…大丈夫です」
「ちょっとだけ?」
「あんまりいっぱいされたら死んじゃいます」
サニーさんは声を上げて笑い、
「じゃあ、
が死なない程度に」
私をさらに抱き締め、キスをした。
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